Serende vol.34

  • 2017-10-23

美しい街並みの旧市街
17世紀に建てられたラウンドタワーはヨーロッパで最も古い現役の天文台のひとつ。コペンハーゲンの街並みが眺められる絶景ポイントでもある。塔の屋上から眺めてみると、眼下にはカラフルな壁の家々と石畳の道でできた街が広がる。その様子は、まるでアンデルセンの童話の世界そのもの。第二次世界大戦の破壊を逃れたこの街には、今も歴史的な建物が数多く残っているのだ。ストロイエと呼ばれる歩行者天国や、その周辺を歩くだけでも、その歴史が感じられる。ストロイエの起点にもなっている重厚な赤レンガ造りの市庁舎は、1905年に完成したもの。105・6mある塔は、コペンハーゲンで最も高い。市の条例によって、これより高い建物の建設が禁止されているそうで、ここもラウンドタワー同様、人気のビュースポットとなっている。ストロイエを中心に歩いてみると、意外とコンパクトな街だなと思う。大通りを一本入ると、雰囲気のある建物が多い。洒落たカフェなども多いので通りをぶらぶら歩くだけでも楽しい。今回は、この旧市街の美しい街並みから始めて、再開発地区の近代建築まで、デンマークのさまざまな建築を巡ってみようと思う。

開発エリアの奇抜な建築群
コペンハーゲンの開発エリア・オアスタッド地区
オアスタッド地区の撮影のため、地下鉄でヴィスタマー駅に向かう。オアスタッド地区は、コペンハーゲン中心部から地下鉄で約10分程のところに位置する、東西の幅約600m、南北の長さ約5㎞にわたるエリアだ。元々は軍の演習場だった土地を市街地として再開発したもので、住宅・ビジネスオフィス・教育施設などを混在させた、バリエーションのある街づくりを目指している。景観や建物の高さ、面積など、厳しい建築基準が課せられている旧市街と違って、再開発エリアでは建築家の自由な発想による奇抜なかたちの建物が多い。地下鉄の駅から歩いて8分ほどで、集合住宅の「8ハウス」が見えてきた。上から見ると8の字になっているというこの集合住宅は、見る角度によって全体のフォルムが変わる。建物全体をぐるりとスロープが一周していて、そのスロープ沿いに住宅が並んでいる。各住戸には前庭があり、バーベキューの道具や自転車が置かれていたり、テラス席が造られていたりして、それぞれの個性がうかがえる。次に訪れたのはスカンジナビア最大の展示場、ベラセンターに隣接する「ベラスカイコムウェルホテル」。デンマークの建築家集団3Xニールセンの設計で、傾いた2棟の建物が向かい合って建つ斬新なデザインだ。ちなみにそれぞれ15度ずつ逆方向に傾いているそうだ。周囲には展示場以外何もないので、一際目立っていた。「マウンテン集合住宅」は傾斜がついた山の上に住居が乗っている。住居の下のスロープ部分はヒマラヤ山脈をイメージしたもので、10階建ての自走式の駐車場になっている。ギザギザに飛び出したバルコニーが特徴的な「VMハウス」も集合住宅。建物としてのオリジナリティは感じるが、住んでみて快適なんだろうか?気になるところだ。この「マウンテン」と「VMハウス」、それに「8ハウス」を手掛けたのは「BIG」の愛称で知られるデンマークの「ビャルケ・インゲルス・グループ」。代表のビャルケ・ インゲルスは国際的な建築家の一人として注目を集めている。驚いたことに、こうしたユニークな形の集合住宅はすべてオープンで、散策する人が誰でも自由にマンションの敷地内に立ち入ることができるようになっている。また、共用のエントランスがないのも日本の分譲マンションとはかなり違う点だ。このエリアの最後に、世界一スタイリッシュと言われる「ティットゲン学生寮」を訪れた。なるほど、円形のフォルムが洒落ている。学生寮の周囲を流れる水路では、学生達がカヌー遊びをしたり、水辺のベンチで読書をしていた。

運河沿いの建築
翌日は観光船に乗ってみることにした。運河沿いの建物を眺めると、思ったよりモダン建築は少ないようだ。波がおだやかなせいか、水面ギリギリの家が多い。水が入り込んでくる心配はないのだろうか。物を売る船もちらほら見かける。そうこうしている内に「王立シアターハウス」が見えてきた。ここは演劇専用のホールで、黒で統一されたシックな外観が印象的だ。対岸にはデンマークの建築家、ヘニング・ラーセンが設計した「オペラハウス」も見える。地元の海運業者からの寄付によって建てられたこの建物は世界で最もゴージャスなオペラハウスのひとつ。観客席の天井には、24金のゴールドリーフが10万5000枚も使われている。日本円でなんと約460億円もかかったそうだ。光沢のある真っ黒な四角い箱のような建物はデンマークの建築ユニット、シュミット・ハマー&ラッセンが手掛けた「王立図書館」。外壁には南アフリカ産の黒色花崗岩を使っていて、その外観から「ブラック・ダイアモンド」と呼ばれている。北欧最大の蔵書数を誇るこの図書館には、アンデルセンの直筆原稿や、王室関連の貴重な書物や資料が大切に保管されている。運河沿いのカフェでは、皆思い思いにくつろいでいて、良い雰囲気だ。


暮らしを彩るデンマークのデザイン
今回の取材は6月。20時を過ぎても昼間のような明るさのコペンハーゲンだが、冬は反対に日照時間が極端に短くなる。長い夜を過ごすデンマークには、家族や友達と団らんし、楽しく過ごす「ヒュッゲ」という独自の考え方がある。ヒュッゲには快適な空間が欠かせない。デンマークの工業デザインに優れたものが多いのは、快適な空間づくりに対する意識の高さの現れだろう。中でも特に灯りが印象的で、街中では実にさまざまな照明を見かけた。興味が湧いたので、ルイス・ポールセンのショールームを訪れてみた。ここでは往年の名作だけでなく現代のデザイナーの作品まで、北欧照明が堪能できる。デンマーク人がいかに灯りを大切にしているかがよくわかった。北欧デザインに興味があれば、デンマーク最大のデザイン博物館であるデザインミュージアム・デンマークもおすすめだ。アルネ・ヤコブセン、フィン・ユールの椅子やルイス・ポールセンの照明などが一度に見学できる。今年はちょうどデンマークと日本の外交関係樹立150周年ということで、日本展を開催中だった。まさかここで抹茶碗や刀の鍔、小刀を見ることになるとは思わなかったが、畳の上に置かれた椅子や、あまり見たことのない浮世絵の展示は、なかなか面白かった。

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