Serende vol.32

  • 2017-3-6
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シンガポールの「住」を支えるHDB
エネルギー・水・食料という基盤となる国土資源を持たないシンガポールが発展するには、「ヒト」は重要な資源のひとつだ。 琵琶湖ほどの広さの国土に約540万人の人が暮らすこの国は、世界でもトップクラスの人口密度で知られている。 そんなシンガポールの持ち家率はなんと9割を超える。それを支えているのが、HDB(Housing Development Board)と呼ばれる公営住宅による都市計画戦略だ。 シンガポールの住宅は、このHDBとコンドミニアムが主流で、住民の8割はHDBで暮らしている。土地付きの一戸建てに住むことができるのは、一部の富裕層に限られる。 チャイナタウンにあるシンガポールシティーギャラリーを訪れてみると面白い。街を再現した非常に精巧なジオラマがあってそれをを見ると、都市計画に沿って効率的に街づくりがされているのがよくわかるからだ。 まず大量高速交通(MRT)を都心部から郊外まで一気に延ばし、そこから無人のモノレール(LRT)をくるくると走らせている。モノレールの窓からは高密度で建てられたHDBが見える。 公営住宅と聞くと、画一的なデザインの住宅を想像するかもしれないが、シンガポールのHDBは一味違う。例えばピナクル@ダックストンは50階建のビルが7棟、全部で1、848戸入居できるというのだからその規模は桁違いだ。 26階と50階で全ての棟がつながっていて、通路はスカイブリッジという広い空中庭園になっている。 地震の多い日本からするとちょっと信じがたい光景だが、こうした公営住宅は案外クオリティが高く、つくりも丁寧なのだとか。1階には飲食店が集まるホーカーセンターやクリニック、コンビニなども入っていて快適そうだ。公営なので外国人は購入できないが、単身でシンガポールに来ている日本人の中にはHDBを借りて、何人かでシェアするパターンもあるそうだ。

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32_3需要の高まりを見せるコンドミニアム

HDBと並んでこの国に多いのがコンドミニアム。その多くは30階以上の高層マンションで、主に暮らしているのは外国から赴任している駐在員や、現地でも比較的余裕のある人々だ。 ほとんどのコンドミニアムにはプールやジム、バーベキュー用のスペースが備わっており、中にはテニスコートやバスケットコート、集会室がある建物もある。広さも間取りも価格も様々だが、コンドミニアムの需要は近年ますます高まっていて、その金額も上昇傾向にあるという。 シンガポールで取材したコンドミニアムをいくつかご紹介しよう。
2007年に完成した「ニュートンスイーツ」は36階建て。高層住宅ながら壁面緑化などによって、自然を身近に感じるつくりになっている。 下層階は自走式の立体駐車場で、6階は共用部になっている。 ちなみに115㎡の部屋で家賃が6800SGD。日本円にすると約55万円だそうだ。 遠目にしか見ることができなかったが、2011年に完成した「リフレクションズ@ケッペルベイ」もかなりユニークなコンドミニアムで、前ページの写真の通り、なんと建物が湾曲している。建物上層部に設置されているブリッジはスカイガーデンだそうで、ニュートンスイーツといい、スカイガーデンはもはや高層住宅に必須のもののようだ。 なんだかずっと眺めていると自分の目がおかしくなったような気がしてくる。 上へ上へと伸びる高層住宅に対して、今度は横の広がりが圧巻なコンドミニアムをひとつ。
32_4「インターレース」は東京ドーム約4個分の居住スペースに、総戸数1040戸が入る24階建ての高級コンドミニアム。 一棟6階建て、1フロア6部屋の36個の直方体のブロックが積み木のように積み重なっている独特の外観だ。 これは空からみるとハチの巣型にレイアウトされているらしいが、残念ながら地上からでは確認できない。それにしてもこのジェンガのような建物。部屋によっては真上にブロックが覆いかぶさるようになっている。余計なお世話かもしれないが、あの真下に住んで快適なんだろうか…?と思ってしまう。ただインパクトは十分、構造自体は意外と単純かもしれないが、そのスケールの大きさでは群を抜いている。 日本人建築家・伊東豊雄氏がデザインした「ベルビューレジデンス」は、シンガポール最大の繁華街オーチャード周辺の高級住宅地に位置する高級コンドミニアム。2015年に亡くなったシンガポール建国の父、リー・クアンユー氏の私邸からも近い。 5階建てと低層ながら、緑の多い閑静な敷地の中には外からはうかがい知れないとても贅沢な空間が広がっている。 伊東氏は自然と調和した有機的なデザインを得意としているが、上から見るとちょうど枝を散らしたように見えるレイアウトは、自然の持つ生命力を表現しているのだとか。 さて、そうなると気になるのがそのお値段。 203㎡で12800SGDというと、日本円で約103万円。 ため息の出るような優雅な生活が送れると思えば妥当な金額かもしれない。 ちなみに伊藤氏はシンガポール最大級のショッピングモール「ヴィヴォシティ」のデザインも一部手掛けている。これはセントーサ島への入口に位置する日本でいうとお台場のような所だ。訪れた日はシンガポール建国50周年ということで、軍艦が入港するなどさまざまなイベントが行われ、多くの人で賑わっていた。
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32_6緑化のすすむシンガポール 

シンガポールの住宅をいろいろと巡ってきたが、全体として、自然を上手く生活に取り入れている印象を抱いた。 それもそのはず、1963年にリー・クアンユー首相が植林を始めて以来、シンガポールは国を挙げて緑化に取り組んでいるのだそうだ。 その緑化政策も年々変化しており、最近では屋上緑化や壁面緑化に特に力を入れている。実際、見て回ったHDBやコンドミニアムは、高層階であっても非常にうまく緑を取り入れていた。 そんな緑化の象徴のような建物が、2013年にオープンした「パークロイヤル オン ピッカリングホテル」だ。 まるで植物園の中に建物が建っているような外観は、街のいたる所に緑を配したシンガポールの中でもかなり目立つ。 これだけの緑を維持するのはさぞかし大変だろうと思ったら、雨水を再利用する自動センサーや、ソーラーパネルも設置されていて、自然エネルギーを上手く活用しているそうだ。環境にも配慮されているのが素晴らしい。 日本にも見習うべき点は多いようだ。 延べ1500㎡に及ぶスカイガーデンから街を一望すると、都会でありながらどこか心やすらぐ風景が広がる。これはシンガポールが長年取り組んできた緑化の成果であり、今後ますます進めていくべき姿でもあるのだろう。
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